新潟県長岡市に本社を置き、東京、大阪に営業拠点を構える株式会社サカタ製作所は、建築金物の製造・販売を展開しています。新たな働き方を推進する同社の強みは、高い技術力を活かした良質な製品のみならず、自らの知恵と行動力で職場環境を整える社員と、柔軟なリーダーシップを持つ社長の存在。今、多くの企業が取り組む長時間労働の解消や男性育休の積極的取得などは、すでに社内に定着済み。坂田社長の「残業ゼロ宣言」をきっかけに大きな改革を成し遂げた同社は、その先を見据えています。
―御社では2014年に残業削減に本格着手されたそうですが、何かきっかけがあったのでしょうか。
当時は、36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)ギリギリなほど残業が多く、2014年の全社集会では次期経営目標として20%の残業削減を発表しました。その発表後、総務課の社員の提案で、小室淑恵さん(株式会社ワーク・ライフバランス代表)による働き方改革に関する講演を開催しました。講演では、小室さんが残業はいかに生産性を下げるか、私生活に良くないかを、社員に上手く伝えてくださったのですが、“運が良かった”ことに、この日の彼女は機嫌が悪かった(笑)。「これまでに数100社を回ってきたけれど、こんなにひどい会社は見たことがない」と。けちょんけちょんに言われました(笑)。
―もともと残業を減らしたいと思われていた背景を教えてください。
私自身、以前から社員の所得を大幅に上げたいと考えていました。それは、社内における人材の流動性を高めたいと考えていたからです。当社は新潟県内と東京、大阪に事業所があります。新潟県内では、他社に比べて給与水準が高いものの、東京、大阪では手当を付けても、なおその地域と比べて給与水準は高くありません。新潟県内の社員を東京、大阪に異動させる場合は手当を付けるので問題ありませんが、東京、大阪の社員を新潟に呼び寄せる場合は所得減少になります。人材の流動性を高めるためには、社員全員の所得を高い水準に引き上げる必要があり、それは、残業をゼロにしなければ不可能だと考えていたんです。
―「残業をなくす」ことで「所得が上がる」とは、どういうことですか?
残業は割り増し賃金であるため、社員にとっては所得増加になり、残業が目的化されることは当然です。本来は、単位時間あたりの付加価値を上げ、会社の利益を生み、所得アップの原資を生み出すことに注力すべきなのに、自分の所得を増やす目的で残業する人がいれば、それに気づいた周りの人は生産性を上げる努力を無意味に感じてしまう。所得アップの原資を生むアイデアや、実行する意欲をなくし、結果として会社の利益は上がらず、社員に還元することができなくなるのです。ですから、残業を目的にする人が1人も出ないよう、「減らす」のではなく「なくす」ことが重要だと考えていました。
小室さんには「残業をなくしなさい」とまでは言われませんでしたが、これは千載一遇の、いや“万載一隅”のチャンスだ!と思い、講演直後に、「さっき発表した来年度の経営方針も目標も撤回します。残業をなくすのが方針。目標はゼロ。その一点にする」と宣言しました。
―その場で決断して発表までされたのですね。
小室さんの講演を全社員が一斉に聞いて、認識を共有したことが最大のポイントでした。もし、講演後にあのまま解散していたら、社員は「いい話を聞いたな」で終わっていたでしょう。それではもったいないと思ったんです。
当然、社員からは「売り上げが落ちるんじゃないか」「今でさえ納期がギリギリなのに大変なことになる」「お客様からの信用をなくす」などの声が上がりましたが、「そうかもしれないけど、これからは残業ゼロにしよう」と貫きました。
―残業ゼロを実現できる確信があったのですか。
ありました。「減らす」という逃げ道を作らず、「なくす」宣言をして窮地に追い込まれれば、社員からあらゆる知恵が出ます。私にもアイデアはありましたが、「社長に言われたから」では、結局のところ続きません。自ら考え実行することで達成感が生まれますし、うまくいかなければ反省を次に生かします。それに、部署ごとに仕事内容が異なるので、画一的な対策は通用しないんです。方法は各部署に委ね、各部門の行動計画や改善活動、人事評価も残業ゼロを達成するためのものに変更しました。
―特に成果を上げた対策はどんなものだったのでしょう。
IT活用や設備投資、時差出勤などさまざまな取り組みを行いましたが、飛躍的に生産性の向上につながったのは、属人化の解消です。生産性は1.5~2倍に上がったと思います。社員はどうしても「会社に必要とされたい」と考え、仕事を抱えてしまう傾向にあります。聖域化していた仕事に多くの人手が加わると、不要な作業が見え、効率のいい方法が生まれ、手分けして業務時間内に完了できるよう努力するので、仕事の内容や取り組み方が変わります。その結果、宣言後1年で大幅に残業を削減することができました。真剣に考え、本気で取り組んだ社員を、私は尊敬しています。
―現在の残業時間はどれくらいですか。
2014年は月平均17.6時間(1人当たり)でしたが、翌年には5.9時間になり、今では約2時間です。また、サービス残業を厳しく取り締まるため、生体認証を使って1分単位で出退勤の管理をしています。残業が発生した場合は、翌日の就業時間内にその理由を報告することにしており、残業=異常事態であり、改善すべきことだと社員全員が共通認識を持っています。
―残業ゼロの取り組みにより、社員の所得アップにも繋がっているようですね。
2020年に残業ゼロの考えが浸透したことから、次の目標に所得アップを掲げました。社員には、所得アップにはどれだけの利益が必要かを具体的に発表し、全社で共有しています。また、利益とは、どれだけ社会貢献できているかを図る尺度であることを丁寧に伝えています。その結果、2020年と比べて2024年は121%の所得アップを実現させ、残業ゼロを目指す前と比較し、最大年間5000万円削減できた残業代は社員のボーナスに反映しています。
―「イクメン企業アワード」両立支援部門グランプリ受賞や「プラチナくるみん認定」など、子育て世代に対するサポートの取り組みも評価されています。特に、男性育休の取得率は100%だそうですね。
当社は男性育休に対するハードルが一切ありません。とはいえ、実は私自身、男性育休の存在を知らなかったんです。あるとき総務課の社員から、「育休を希望する男性社員がいるけれど、誰も取っていないので言い出せずに悩んでいる」と聞きました。そこで初めて男性育休の制度を知り、絶対に取るべきだと、本人に声を掛けその場で上司にOKの言葉をもらったんです。二例目は、「仕事が忙しいから取らない」と言う本人のところに行き、また上司に了承を得て活用させました。みんなの前でパフォーマンスをしたことで、「育休を取らないと社長が飛んでくる」と噂になったのかもしれません(笑)。当社では男性の育休期間は2週間以上を推奨していて、大半が1ヶ月間取得しています。
―定着させるには、社内の雰囲気づくりが大事なのでしょうね。
そう思います。以前は、育休を取った社員や支援した上司を「イクメン・イクボス」として表彰することで、取得しやすい雰囲気を醸成していました。今では男性育休が浸透したため、表彰は終了しています。
残業ゼロの取り組みや、育休取得を推進することで、思いがけず社内出生率にも大きな変化が生まれています。残業ゼロに取り組んでからは3倍、育休取得を推進してからは6~9倍に増えました。家事や育児に協働で取り組むことで、男性側の意識が変わった結果だと思います。
―1時間単位での有給休暇や、子どもが小学4年生になるまでの短時間勤務、テレワークなど、子育て世代が働きやすい環境づくりにも取り組まれていると伺いました。
これらも社員からの提案です。特に1時間単位の有休は、子育て世代の社員に限らず好評で、よく活用されています。
テレワークはコロナ禍前に始めました。所得の地域差をなくしたいという思いもあり、新潟に会社があるから新潟に住む、仙台に住むから仙台で仕事を探すというような、働く場所と住む場所の関連付けを解消したかったんです。そうすることで、生産性を上げる新たなアイデアも生まれます。実は今、製造現場でも自動化やテレワーク化を積極的に進めているんです。工場に人がいなくなり、自宅でモニターを見ながら機械を操作する未来は、それほど遠くないでしょう。
―御社の女性活躍についてもお聞かせください。
現状では、女性社員の役職者への登用は課長職の女性1名ですが、今後増えていく予定です。前から計画はしていたのですが、女性社員からは「責任ある仕事はしたくない」「目立ちたくないし、今のままでいい」と言われていました。そのことを前述の小室淑恵さんに話したら、「それは会社が女性に期待していないからじゃないですか」と。そのとき、“期待していなかったのは会社でなく私かもしれない”とハッとさせられたんです。当時は、男性社員が営業をして女性が営業事務を担う、生産管理の交渉は男性が行って女性はそれを補佐するなど、女性をサポート役にしていたんですね。小室さんと話した翌日、女性社員を集めて、「皆さんに期待していなかったことを深く反省します」と謝り、男性社員がいる前でも同じ話をしました。翌年は「女性をえこひいきする年」と位置づけ、部門ごとに女性活躍を実現させるための方策を決めてもらいましたが、そうすることで、ある意味、女性が昇格しないという“逃げ道”を塞いだわけです(笑)。
―もう「今のままでいい」とは言えませんね。
そういうことです。女性活躍はダイバーシティ経営を実現させる上での一丁目一番地。実際、当社には優秀な女性社員が多く、頼りになりますし安心感があります。そうした女性を会社として正当に評価し、活躍できる体制づくりをしています。
女性活躍の他にも、ダイバーシティ経営という観点では、現在、5名のベトナム人社員が当社で働いています。
―ベトナム人社員はどのような経緯で採用されたのですか。
きっかけは、高度外国人材に関する長岡市の事業で、ハノイ工科大学からの留学生をインターンシップで受け入れたことでした。みな優秀で真面目に仕事に取り組み、雰囲気も良い。現在は同大学の出身者を5名採用し、金型や製品開発等の部署でそれぞれ活躍しています。
また、ベトナムでは、国を挙げて自動車メーカーや機械メーカーを誘致しており、将来的には、弊社でもその金型部門や自動化の分野に参入したいと考えています。ベトナムは4年前に人口が頭打ちになったため、いずれは日本と同様に、人件費が上がり人手不足になるでしょう。今、日本でこの難題に取り組むことで、ベトナムにおいてもこれまでの知見を活かすことができると思います。今後は日本とベトナムを合わせた2億2000万人をターゲットとした事業を展開していきます。
―多くの企業で人手不足が深刻化していますが、御社は如何でしょうか。
当社の場合、若くて優秀な人材からの応募も多く、人材不足を感じることはありません。また、今のうちから自動化による人手に頼らない仕組みづくりを進めています。最近では、少ない若手人材の中から優秀な人材を採用するよりも、今いる社員にいかに長く働いてもらうかに目線を移す方が当社や地域、そして社会にとってもより良いのではないかと考え、新卒社員の募集を控えています。
当社は、現状の社員で1年ごとに平均年齢を1歳上げていく。社員には冗談を交えて「中高年の集合体で行こう!」と話しています。
―世の流れの逆を行く、新しい発想ですね。
今働いている70歳の社員は、コンピュータも自在に操ります。これからは、年齢に関係なく素晴らしい働きや発想をする会社が、新しいダイバーシティ経営企業として活躍すると思います。
―これまで数々の宣言を実行に移してきた御社ですが、今後についてお聞かせください。 今後はLGBTQ+に対する雇用環境の整備も重要なポイントになるでしょう。当社が、これまで不可能だと思っていたことを新たなアイデアで実現してきたように、私たちなら、マイノリティの方々の発想力から新たな可能性を見出せると思っています。当社が成功例となって未来の会社の在り方を見せていきたいですね。
企業情報
株式会社サカタ製作所
業種 | 製造業
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住所 | 新潟県長岡市与板町本与板45番地 |
TEL | 0258-41-5266 |
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