家庭で不要になった古紙類回収にポイントを付与する「古紙リサイクルステーション」の普及拡大、そして社員が企画・運営する有志プロジェクト、社内コミュニケーションの活性化などの取り組みが高く評価され、2017(平成29)年度「仙台『四方よし』企業表彰」企業大賞を受賞した株式会社サイコー。2020年にはホールディングス化を果たし、地域の環境課題から社会が抱える課題の解決、未来への貢献と、視野を大きく広げています。そこには「地域貢献と事業活動の両輪でこそ企業は成り立つ」という創業時からの理念が通底しています。
―2017(平成29)年度の仙台「四方よし」企業大賞受賞後、どんな反響がありましたか。
受賞のために様々な策を講じてきたわけではありませんが、社員・従業員を大切にしたり、地域のためにと少しずつ努力してきたりしたことが、対外的に評価されたことがうれしかったですね。箔が付くといいますか、当社に対する知名度や信頼性が高まったことは間違いなく、採用活動へもポジティブに影響しています。
私自身も人的ネットワークを広げることができました。仙台「四方よし」の表彰式や会合で他業種の経営者とのご縁ができ、垣根を超えたディスカッション・意見交換をしています。
仙台市からお墨付きをいただいた企業が、さらに地域の中で活躍、尽力していくことが、受賞へのアンサー、感謝の気持ちを伝えることになるのではないかと思っています。
―2020年、株式会社SKホールディングスを設立されましたが、その経緯と目的をお聞かせください。
(株)サイコーは、古紙回収からスタートして環境事業全般をカバーしてきました。それまでは環境という文脈の中で社会課題に対峙してきましたが、今後は複雑化し、深化していく地域の諸問題に向き合い、環境面においても持続可能性といった大きな枠組みで企業活動を展開していかなければならない…そう考えた時に、(株)サイコーを始め、(株)SKトレーディング、(株)ステップスナインといったグループ企業をより統括的に管理し、ガバナンスを強化し、経営の効率化、資本・人材戦略の柔軟性を高めていく必要があると考えました。
SKホールディングスの組織には、経営企画、総務、財務・経理、人事・広報などのバックオフィス機能を整えました。4年を経て、高度な運用と結果が伴うようになったと感じています。2019年に策定した中期経営計画の点が線に、面となって展開されるフェーズも出てきました。
―社会課題の取り組みとしては、グループ会社のSKトレーディングが担われている『Pocci!』という取り組みもありますね。
古紙類というのはささやかながらも価値がある、そこがこの事業の着眼点です。Pocci!の企業会員は、資源物をリサイクルするとポイントが付与され、貯めたポイントで、Pocci!地域団体を支援するという仕組みです。対象となる地域団体にはスポーツ団体やサークル、子ども食堂のほか、地域のお祭りやイベントもあります。
子どもたちの夢とチャレンジを応援したい、可能性を見つけ育むチャンスを手にしてほしいというのが、私たちの強い願いです。活動内容と実績は、速やかに発信し、みんなで関心を高めていけるよう努めています。また、当社においても活動を通じて得た情報や利用者の声を通じて、マーケットをリサーチしたりビジネスのアイデアを探ったりしています。地域社会が抱える課題に取り組むことが、新たなビジネスの可能性を広げる鍵であると感じています。
―御社は、廃棄物再生事業者登録・県内第一号(1988年)を始め、宮城県の古紙業では初となるISO14001の取得(2000年)、日本初のAI深層学習を実装した資源回収ステーションの展開(2024年)など、他社に先駆けた取り組みが顕著です。
当社ホームページでも明言していますが、行動の指針としては「ちょっと無理して」。つまりストレッチゴールを目指す積み重ねが、チャレンジ精神として表れているのだと思います。
この業界は廃棄物を収集し、処理、リサイクル、再利用などを行い、再び社会に流通させることを目的としており、いわゆる静脈産業といえます。社会に欠くことのできない業態ですが、イメージが良いとは言い難いところがあります。私は、この業界で働きたいと思ってもらえるような、勤めていることが誇らしいと胸を張れるような業界にしたいと思っています。これまでさまざまなことに挑戦してきた積極性と向上心の根底には、業界のイメージを変えたいという思いがあります。
当社ではホールディングス化をする10年前から広報部を組織し、広告・PR活動に力を入れてきました。SDGs(持続可能な開発目標)の広がりや当社の社会課題解決型のビジネスモデルが浸透したことにより、特に若い世代へのアピールにつながり、新卒学生からの応募が増え、毎年、学生を採用することができています。
―労働環境や従業員満足度を知る尺度の一つとして離職率が挙げられます。令和5年雇用動向調査(厚生労働省)によると一般労働者の離職率は12.1%、パートタイム労働者は23.8%という中、御社は一桁だとお聞きしました。
サイコーの離職率は3.9%、グループ全体でも6%を切っています。この数字は大いに誇れるものだと思っています。一方、私は、転職はネガティブなものだとは捉えていません。飛躍や挑戦のためには、別のフィールドに飛び立つことも必要でしょう。
離職率の低さをもたらしていると考えられる要因は二つあります。一つは「心理的安全性の担保」、組織の中に必ず居場所があるということです。人には得手不得手がありますが、他者がいるところでは、見栄や虚勢を張ったりするものです。私は、資質や能力において十分ではない部分を補うのが組織だと考えています。もちろん本人の努力が前提となりますが、個性を認め合う、自信をもって働ける環境づくりには気を配っています。
二つ目は、社員・従業員相互が「ルールではなく価値観でつながる」ということです。ルールをつくるとルールを守らせることが目的化してしまうことがあります。SK“らしさ”、企業文化が一人ひとりの中に流れ、それを共有することで帰属意識や主体性が生まれ、当社の離職率低下にも寄与していると考えています。そうした価値観を共有する取り組みの一つとして、新卒社員向けに入社後3年間、「自分力向上プロジェクト(ジリキ)」を導入しています。これは社員自らの人間力を高めるために、上司や同期との対話を通じて成長を促すプログラムです。ジリキを受けた社員が年を経るごとに増えていくことで、社内の風通しも良くなると期待しています。
―昨年(2024年)4月、(株)サイコーの代表取締役社長に服部泰子さんが就任されました。人材登用の方針をお聞かせください。
私が社長の職に就いたのは2012年、その時から後継者は社内から選出しようと考えてきました。私はたまたま創業者の家族でしたが、法人は共有財産であり、法人の構成員が会社を個人的に所有できるわけではありません。後継者としては、SKマインド、価値観を共有できているかを重視し、ジェンダー不平等を排除しています。
登用過程においては、全ての候補者が公平に評価されるような仕組みを作っていますし、一人ひとりの達成度や成果によって、昇進やリーダーシップを発揮できるポジションを担うことができるようにしています。
―地域貢献、業界のイメージアップ、環境問題へのアプローチなど、視座高く多彩な活動を展開していますが、今後はどんなことにチャレンジされる予定ですか。
私は、これからは、大企業が社会やビジネスにおける変革を主導していくのではなく、さまざまな企業が協働し柔軟な発想で新しい価値を生み出していく時代だと感じています。小さなイノベーションの積み重ねで、社会やビジネスの現場をより良い姿に変えていきたい——そんなコンセプトで立ち上げたのが「株式会社雑談会議」(設立2022年)です。中小企業1社ではできないことを、複数の地元企業が集まり、その化学反応で「共創」していこうというものです。
今、日本全体が人口減少の局面に入っていますが、東北はさらに加速していきます。お金ではなくて、人を残そうというのが雑談会議のポリシー。地元企業のイノベーションをフリーランス人材との共創でサポート、企業・自治体・教育機関を結ぶプラットフォームづくり、まち(定禅寺通り)のにぎわい創出など、さまざまなプロジェクトが同時多発的に動いています。就活学生へのアピールとして、「業種」の魅力を発信していくことにも力を入れています。
私は、現状維持は退化だと考えています。今日より明日を良くするために、今、何ができるのかを自問しながら、仙台をさらに魅力的にするための可能性を探っていきたいと思います。
企業情報
株式会社SKホールディングス(SKグループ)
業種 | その他の業種
|
---|---|
住所 | 宮城県仙台市青葉区国分町三丁目3番1号 定禅寺ヒルズ6F |
TEL | 022-211-4877 |
HP |