小売業やリテールサービスにおいては、データが効率的な在庫管理と需要予測を可能とし、収益の最大化、顧客満足度の向上、そして競争優位性をもたらすとされています。データコム株式会社は1994年の創業以来、一貫して小売業界に特化したシステムソリューションを提供してきました。POS分析システム※の汎用化を進め、全国の小売業におけるデータ経営の実現に寄与しています。取引企業は累計200社超、食品スーパーマーケット年商上位100社中、約50%のシェアを獲得し、業界内では「分析システム=データコム」と広く認知されています。同社では2024年度以降を“第二創業期”と位置づけ、新しい市場、新たな業態への挑戦を始動させています。
※POS分析システム: 小売業において、商品販売時のデータを収集、分析、活用するシステム。リアルタイムで販売データを把握し、在庫管理、需要予測、販売戦略の改善に役立てることができる。
―小野寺社長は、「40歳で起業する」という志を実現されたようですが、小売業に特化した理由をお聞かせください。
代表取締役 小野寺修一(以下、小野寺社長)/社会人になった折に、米国の教育家ポール・J・マイヤーが提唱した成功哲学に触れ、40歳で起業することを目標に置き、行動してきました。小売業界をターゲットにしたのは、その市場の大きさです。
1990年代は専用OSとアプリケーションを用いるオフィスコンピュータから汎用OSとPCサーバーに移行した時期で、企業などでの導入が始まりました。今とは同列に比較できませんが、パソコンの性能もぐんと向上しました。
―事業の方向性を決める際に目標とされたことは何でしょうか。
小野寺社長/私たちが目指したのは、POS分析システムの汎用化です。比較的高価だった導入費用をパッケージ化によって抑え、全国の小売業におけるデータ経営の実現に貢献したいと考えたのです。データは、ビジネスの行く先を明るく照らしてくれる道標になります。
そうした考えのもと、PCサーバーによる高速データ分析基盤を使って、商品分析システム「d3」を開発しました。リリースから20年経ちますが、その完成度は高く、バージョンアップや更新を重ねて、現在も当社の主力の座を占めています。
―システムエンジニア(SE)は、残業が多い職種として知られていますが、御社における働き方の工夫はありますか。
小野寺社長/急な仕様変更が発生したり、予期せぬバグに対応したりしなければならないSEは、残業や休日出勤は当たり前というイメージがあるかもしれませんが、当社ではシステムをパッケージで販売することにより、保守やメンテナンスが主となり、労働時間の効率化を実現しています。2020年からは時差出勤や時間休の取得を可能とし、ワークライフバランスの向上を図っています。仕事と家事・育児・介護との両立を支援していきたいですね。
人的リソースは2割ほどの余力を残しており、研究・開発に注いでいく計画です。現在は、小野寺取締役を中心に、主にアジア諸国の優秀な外国人人材の獲得に動いています。インターンシップを通して、外国人の働き方や価値観を理解しながら、本採用を目指しています。
―御社は海外への事業展開も視野に入れているとお聞きしました。その背景や、課題と感じている点についてお聞かせください。
取締役・経営推進部長 小野寺裕貴(以下、小野寺取締役)/日本は2008年頃から人口減少社会に突入したといわれています。今後は、スーパーマーケットを利用する“胃袋の数”が少なくなるわけですから、このままでは私たちの事業も縮小に向かわざるを得ません。グローバルマーケットへの進出は必然的な戦略となってきます。
当社のパッケージを海外で展開していく上で障壁となるのが、文化・慣習の違いです。例えば日本において「欠品」は、機会損失、顧客満足度の低下を招くものとして最大限の配慮をしますが、アジアの国ではおおらかで、「棚になければ他の商品を買って」というスタンスです。また、家族経営の小規模な商店が地域に根差しており、私たちがイメージするスーパーとは規模もスタイルも異なります。
―文化や慣習が異なる海外市場での事業展開を進めるにあたり、どのような方法で価値提供を行うことを検討されているのでしょうか。
小野寺取締役/商品分析システムを安価に提供することはもちろんなのですが、その他の価値——例えば需要連動型プライシング、あるいは来店させる工夫、お店を楽しんでもらう方法など——を提案していかなければならないと考えます。そのためには、データコムの強み、競争力の根源であった「きめ細やかな開発マインド」に加えて、別の角度からの大胆な発想が必要です。当社では、海外にルーツを持つ人材を含めた多文化組織を構築しており、自由闊達な議論の中から、革新的で型破りなアイデアが生まれると信じています。私の役割は、そのアイデアと実現可能性のバランスを取ることですね。
―国内の小売業の変化と、その対応についてお聞かせください。
小野寺社長/今後、地方にあるスーパーはM&Aが進んでいくものと予想されます。一方で、現場における高スキル人材の枯渇は深刻で、小売業を熟知したバイヤーが年々減っています。専門知識を深める体系的な教育が必要なのですが、恒常的な人手不足もあり経験知の継承が果たされていません。
そこで「AI(人工知能)は、優秀なバイヤーを代替し得るか」という問いになりますが、AIがバイヤーの役割を果たすためには、定量的データで合理的な分析を行いながら、定性的データから人間的な洞察を補完する必要があります。その学習のための大規模なデータセットが必須で、その入力がネックになっています。
小野寺取締役/AIを使って売場のゾーニングや効率的な商品管理ができるのでは、と思われがちなのですが、AIが一般人の慣習や感覚を習得するにはまだ少し時間がかかりそうです。シャンプーとトリートメントを例にとると、AIはシャンプーだけのスペース、トリートメントのみのコーナーというように、別々に陳列させますが、消費者の感覚としてはブランド毎にシャンプーとトリートメントが並んでいた方が自然です。いわゆる「ライン使い」ですね。当面の解決方法としては、AIにはデータ分析に基づく提案を担ってもらい、バイヤーが最終的な意思決定をする「協働」という形を取ることが考えられます。
―小野寺取締役は、昨年(2023年)、データコムに入社されたわけですが、事業承継については以前からお考えでしたか。
小野寺取締役/私はビジネススクールでMBA取得後、みずほ銀行に就職し、その後、市場調査・マーケティングリサーチ会社で事業開発を担っていました。父が創業した会社で働けるということは、得難い立場であるという自覚を持っていますし、データコムが新しい領域へチャレンジしようという今、語学力や国際的なマーケット感覚を生かして貢献できるのではないかと考えました。また、仙台をUIJターンしたくなるようなまちにするため、微力ながらお手伝いできればと思っています。私自身も高校までを過ごしたので、活気あるまちであり続けてほしいと強く願っています。
小野寺社長/時代と共に、社会や人々の価値観や行動様式は大きく変容しました。私は、創業以来、ずっと走り続けてきましたが、事業の中枢を少しずつ新しい世代に手渡していくべきだと考えています。そのため、組織の若返りを図り、前言の通り、多彩な能力と個性を持つ外国人人材を迎え入れてきました。事業ドメインも、ソフト開発にとどまらず拡充していくため、昨年、ホールディングス化を果たしています。
―御社は社会貢献活動にも積極的に取り組まれているとお聞きしました。
小野寺社長/個人的な立場はどうあれ、ずっとかかわり続けていきたいと考えているのが、地域に根差した社会貢献です。長年、小売業界に携わる中で、食品ロス問題の解決に取り組みたいと考えており、10年来、フードバンク活動に取り組んできました。年々賛同者も増えているのはうれしい限りです。
また、地元スポーツチームの支援も行っています。こうした活動は、今後、アジア諸国をメインマーケットにすることになっても、地域に育てていただいた企業として変わらずに取り組んでいきます。
―「令和6年度仙台市地域中核企業輩出集中支援事業」にエントリーすることになった経緯をお聞かせください。
小野寺社長/当社が本格的に「外を向いて」いくためには、新しい視座からの見解や意見が不可欠です。多面的な支援が提供される本事業を通じて、新規性のある取り組みを加速させていきたいと思いました。また、長期的な成果を見込んだ計画と運営が可能な事業である点も大きな利点、魅力と感じられました。
―本事業で支援を現在どのように活用されているか教えてください。
小野寺取締役/当社のこれからの事業展望としては、他業態、他国を含めた「顧客拡張」、そしてAIを実装したデータ分析高度化などの「サービス拡張」、この2軸を駆動力にしたいと考えています。本事業の支援の一つであるコンサルティングも始まり、まさに従来の常識や枠組みを覆す、新しい視点や考え方について様々な議論を交わせています。いくつかのアプローチがありますが、年内には一つの方向性を定め、計画・実行フェーズへと移行していきたいですね。
世界全体の枠組み・トレンド、未来への課題を考慮しつつ、地域の特性や文化、ニーズに応じた実践的なアプローチをとる「Think Globally, Act Locally」を具現化する挑戦を続けていきます。
企業情報
データコム株式会社
業種 | その他の業種
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