夏の厳しい暑さも幾分和らいだ2024年9月、大きな片流れ屋根の下には、たくさんの老若男女が集まっていました。笑い声が絶えない楽しい縁日が開催された場所は「アンダンチ」。そのネーミングは、あんだん(あなたの)、ち(家)という地域の言葉に由来します。
ここは、「仙台『四方よし』企業表彰」で令和元年度大賞に輝いた株式会社未来企画が運営する多世代交流複合施設。今から6年前にこの地にまかれた種は、人々の笑顔の花が咲く「地域の縁側」に成長しました。
―2019(令和元)年の「仙台『四方よし』企業表彰」大賞受賞は、どのように受け止められましたか。
予期せぬ大賞受賞で私がいちばん驚きました。仙台市のイベントにも参画する機会をいただき、認知度、ブランディングの向上につながりました。一方で、その名に恥じぬようにという緊張感は常にあります。「四方よし」大賞受賞が、私を始め、管理職、さらには従業員のモチベーションになっているように感じます。
―受賞時の取り組みである、貴社が運営する多世代交流複合施設「アンダンチ」には、福祉施設、保育園、就労継続支援施設、食堂、駄菓子屋などがあり、まさに世代を問わず多様な人々が交流できる場を提供しています。この構想はどのような経緯で生まれたのですか。
まずは小規模多機能ホーム「福ちゃんの家」の立ち上げから始まりました。私も介護事業は初めての取り組みであり、試行錯誤しながらでしたが、利用者やそのご家族からさまざまご要望を受ける中で、高齢者だけで閉じた場所ではなく、地域に開かれ、多様な人々が垣根なく集える場所をつくりたいと強く思うようになりました。当時、荒井地区は震災復興先導地区として整備が進んでいたという機会にも恵まれ、これまで考えてきた発想、構想をカタチに、またさまざまな困り事に応えることができました。
―貴社のお考えや取り組みを周知するため、情報発信に注力されたとお聞きしましたが、具体的な内容をお聞かせください。
ウェブサイトやSNS、チラシなどの広告物でのアウトプットに力を入れました。デザイン全般に関しては、アート分野で活躍する知人友人に手伝ってもらい、表現の仕方について工夫したことで、親しみやすい、わかりやすいなどの評価をいただくことが多いです。建築デザインについても、明るくスタイリッシュで、ウエルカムな雰囲気を持つ意匠にこだわりました。
―さまざまな個性を持つ人たちが集う「共生」という有りかたは、そこに関わる方々の受容・理解が大事になりますよね。
そうですね。社会とはさまざまな人によって構成されているという当たり前のことが、見えにくくなっているように思います。例えば、小中学校では障がいのある人も特別学級などで一緒に学校生活を送りますが、卒業後は交流の機会が減り、いつの間にか関わりを持つ意識が薄れてしまう方が多いと感じます。私は、子ども、高齢者、そしてハンディキャップを持つ人たちが一緒に過ごすことで多様な人の存在を認知することができ、それがむしろ自然なことなのではと思うのです。
―アンダンチではお互いの受容や理解が進み、職員の方や施設利用者との間で多くの交流が図られているようですね。
現在、就労継続支援で働く方たちには、アンダンチの共用部の清掃や保育園のおもちゃの拭き取りなどに従事してもらっています。すると園児や職員との間で、あいさつや「ありがとう」というコミュニケーションが自然に図られるようになっていくんですよね。就労者の方も、まわりから認められ、感謝の気持ちを寄せられることで、やりがいや自己肯定感につながっているようにみえます。
また定期的に保育園児と高齢者の交流も図っていますが、見ているこちら側も心が温まるひとときです。いろんなところで「人とのつながり」が叶っています。
―貴社は、「福祉や介護、保育や高齢といった分野に対して、普段関わりがない人が自然と接点を持ち、いろんな人がいるということを認め合える地域をつくりたい」という理念を掲げています。そうした思考の背景となった経験はありますか。
大学生の時に行ったケニアへのインターン留学が転機になったかもしれません。現在、東アフリカ地域経済の中心として発展しているケニアは、豊かな自然資源に恵まれる一方、貧困を始め、多くの社会問題を抱えています。私はフィールドワークの一環として、アフリカ最大のスラムとされるキベラ地区に赴き、当地に住んでいて、運営をサポートされている日本人の案内で小学校を訪れました。子どもたちはとても厳しい環境下にあっても、とても明るく快活で、幸せそうに見えました。案内をしてくださった方は、ここには物質的な豊かさはないけれど、「人とのつながり」「精神的な豊かさ」があるのだと話してくれました。
―アンダンチが体現している多様な人が関わり合い、認め合う文化はケニアでの経験が活きてカタチになっているのですね。
そうですね。帰国後も、アルバイトで旅費を貯めてはバックパッカーとして東南アジア、アフリカ諸国を巡りました。成長・発展に向けて変わり続ける国や地域の「今」を見たいと考えたからです。多くの出会いと体験から得た“世界は多様な人が共存するもの”という観念は、柔軟なものの捉え方、多様性や包括性への理解を形成しています。
―大学卒業後は総合商社に就職されて、鉄鋼部門に所属されていたとお聞きしました。畑違いのフィールドに飛び込まれることになったきっかけ、経緯についてお聞かせください。
腎臓内科医である義父が「人は予期せず病を得、障がいを持ったり自立した暮らしが難しくなったりする。その時に親身になってサポートしてくれる施設があれば」と話していたことがきっかけになりました。当時、商社では、顧客との信頼関係も築けており、色々と仕事の幅が増えていた時期だったのですが、開業した義父の思いや志に惹かれ、一念発起し、会社を退職しました。ただ商社で叩き込まれた「困っていることを解決する価値提供が、ビジネスの本質だ」という理念は、私の仕事観の一部になっています。
ー仙台「四方よし」企業制度では多様な人材が活躍できる魅力的な職場環境づくりに向けた取り組みを普及・啓発しています。貴社が従業員に向けて取り組まれていることはありますか。
当社は、アンダンチの敷地内に企業主導型保育所「アンダンチ保育園」を運営しています。保育園は、現在8名の従業員も利用しており、子育て世代である従業員にとって職場近接で安心して働くことのできる職場環境を提供しています。
ー介護業界は労働人口の減少と高齢化による需要拡大により、人手不足が顕著であると言われております。貴社の人材採用における現状についてお聞かせください。また、採用面で工夫されていることはありますか。
当社では、社員の募集をハローワークと自社ウェブサイト、SNSにより行っており、当社が希望としている人材を採用できています。それは、当社と求職者のマッチングができていることが大きいと思います。職場の文化、風土、雰囲気は働く人がつくるものだと考えているので、面接は丁寧に時間をかけて行っています。また、チームに溶け込み、協力・協働ができる人材を確保するため、新卒の方には「3、4日、施設に滞在してみて、自分に合うかどうか判断してみては」と勧めるようにしています。
―さまざまな従業員がいる中で、共通の目標や課題に取り組んでいくには円滑なコミュニケーションが欠かせませんが、工夫されていることはありますか。
当社ではGoogleワークスペースを導入し、チャットなどで情報共有していますが、文字だけの表現では、時に厳しく感じられたり、辛辣だと捉えられたりします。そこで言葉の運用について考えてもらうきっかけになればと、「クレドレポート」に取り組んでもらっています。クレドレポートとは、企業の活動方針を簡潔に表した言葉(クレド)に沿って、従業員同士で互いの行動を前向きにポジティブに評価するレポートです。この取り組みにより、チームメンバーは言葉遣いを考えるきっかけになりますし、信頼関係も生まれています。
また、全社横断的に各種委員会(研修、接遇、事故防止、虐待防止、感染症対策)を立ち上げています。事業所の垣根を越えて、異なるスキルや視点を持つメンバーが集まることは、各人の発見や成長に資すると思いますし、問題発見・解決能力も向上しているように思います。
―今後の展望をお聞かせください
「仙台『四方よし』企業表彰」の大賞受賞から5年。企業の認知度、ブランディングが向上したことを活かし、事業の拡大に努めて参りました。とても良い刺激をいただいたと感謝していますし、地場企業としての責任と誇りも生まれたように思います。
幸いなことに多くの方からアンダンチの理念と事業運営への興味、ご賛同をお寄せいただいています。視察に来られた方からはぜひ同様の施設を展開していきたいという声も頂戴することもあり、“地域の縁側”のような場が全国へ広がっていくことをうれしく思っています。地域性や利用者層を勘案することが必要ですが、とても大きな可能性を秘めたビジネスモデル、福祉施設だと思います。私も可能な限りアドバイザーとして力添えしていきたいと考えています。ここ仙台での実践で得た知見を賛同してくださる事業者へ伝え、福祉を地域に開くという思いの輪が広がっていくことを期待しています。
企業情報
株式会社未来企画
業種 | 医療・福祉・介護事業
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住所 | 仙台市若林区荒井7丁目4-1 |
TEL | 022-290-7291 |
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